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書く人・紺の短編作品と書き物雑談。猫好き、本好き、空想好き。写真と言葉と夢から紡ぎ出す、ささやかな物語。
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no.16「エスプレッソを聞きながら」

(写真:大阪・北堀江のシアターcafe Nyan(猫庵)にて)


 そのカフェは、ビジネス街から少し離れた場所にあった。

 赤ワインを飲んでいた最後の客も帰り、そろそろ店を閉めようか、とマスターがエスプレッソマシーンの洗浄を始めてクローズドの看板を出した時だ。黒い鞄を肩にかけた若い女性がすぐそばに立っているのに気がついた。

 あの、もう終わりですか。彼女は聞いた。

「いえ、いいですよ。エスプレッソは出来ないんですけど」

 どうぞ、とマスターは彼女を店に招き入れた。
 平気です。じゃあカフェモカください。静かにドアを閉めると、カウンターに向かった。

 ジュッ、ジュッ
 シューシュー

「すみません」
 洗浄音を気にかけて、マスターは女性客に声をかけた。

 全然。気にしないでやっててください。
 こんな時間に飛び込んできた私が悪いんですから。
 でもどうしてもあたたかいもの、飲みたくなってしまって。

 隣の籍に鞄を座らせる。
 書類の束と本が数冊入った鞄は、ずいぶんと重そうに見えた。

          * * * * *

 次の日も、次の日も、まるで閉店まぎわのタイミングを見計らったかのように、彼女は店に現れた。
 毎回、毎回、エスプレッソマシーンの洗浄音を聞きながら、カフェモカやホットココアやロイヤルミルクティーを注文して、1杯を大事に飲み終えると、おつりがいらないようにぴったりの金額をカウンターに置いて、帰って行った。

 火曜日から土曜日まで、毎晩のように現れる彼女を、マスターもいつしか待つようになっていた。
 相変わらず素性はまったく分からないままだったけれど、学生ではなく社会人であることだけは、服装や話し方で読み取れた。
 こんな時間まで仕事をして大変だ。
 同じ時間まで店を開けている自分を棚に上げてそんなことを考え、ちょっと疲れていた彼女の表情を思い出していた。

          * * * * *

「今日は日曜日だけど、どうかな」

 独り言のようにつぶやいたマスターは、午後3時の営業を始める。
 看板を出して間も無く、扉が開いた。

 こんにちは。

 心無しか、明るい顔をした彼女は、まだ客のいない店内に入ると、いつもの、カウンター席に腰をかけた。

「今日は……エスプレッソをいただけますか」
「かしこまりました」

 この店で、彼女が初めて飲むエスプレッソだ。
 マスターは思わず話しかけていた。
「あの、毎晩、ずいぶん遅くまで仕事をされてるんですね」

 ああ、と彼女は言い、こう続ける。

「仕事はそこまで遅くはないんですけど、実は私、資格取るために会社終わってから専門学校に通ってたんです。で、試験直前は居残りして勉強してたので、毎日あんな時間になってしまって」
「そうなんですか。じゃあ」
「はい、今日の午前中、終わったんです、試験。だからとりあえず、打ち上げ気分で」

 どうぞ、と差し出されたエスプレッソに口をつけた途端、彼女は「にがっ」と顔をしかめた。
「あ、そのままじゃなく」
 あわててマスターが止める。
「え?」
「お砂糖を3杯くらい入れてください」
「あ、そうなんですか。実は初めてなんですよね、エスプレッソをちゃんと飲むの。そっか、お砂糖をたくさん入れて飲むものなんですね」

 そう言うと、ちょっと照れたように笑いながら、神妙に砂糖を3杯、黒い液体の中に流し込んだ。

「いつも私が来ると、そこの機械がじゅうじゅういってたでしょう?」
「はい。エスプレッソマシーンを洗浄していたんです。耳障りではないかと気になっていたんですが」
「ううん。むしろ反対です。私……、実家がクリーニング屋なんです。小さい頃、毎日毎日、父がアイロンをあてる蒸気の音を聞きながら育ったから、何か懐かしくて。だから何となく家に帰った感じで、心地よかったんです、ホントに」

 気になっていたことが、全部溶けていくような感覚をおぼえたマスターは、彼女に向かって言った。
「じゃあ、2杯目のエスプレッソを私からごちそうさせていただけませんか」

「えーっと、それはちょっと……。えっと、じゃあ、ホットココアにしてもらえますか。やっぱり私、エスプレッソは苦手みたい」
 彼女の顔が、一瞬子どもみたいになる。

「かしこまりました」
 マスターはゆっくりと、白いカップに手をかけた。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -(完)

この物語はフィクションです。
登場する場所のモデルはありますが、
登場する人物・団体名はすべて架空のものです。

写真は、夜のカフェの雰囲気ということでセレクト。
これは2階のテーブル席ですが、カウンターももちろんあります。
吹き抜けの壁に映像が流れるゆったりとした空間です。
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猫、そのほか
明日30日~12月1日は京都にプチ旅に行ってきます。

ということで1日は更新お休みします。

30日は、先日の朗読会のために書き下ろしていたけれど使わなかった幻(?)の短篇「エスプレッソを聞きながら」を掲載します。

そして、今日はを(笑)

神戸市中央区日暮通の野良猫たち。
白黒のコはまだ子猫。そしてちょっとブサイク笑



後ろ姿が何だか絵になる風景。

夢027話「ボディガード」
こんな夢をみた。

女友達がある男に狙われているという情報。
彼女は小学校時代からの友達なので、何とかせねば、と思う。

そしてついにその男と正面対決の日が来た。

ヤツは両手にカミソリを仕込んでいる。

私は素手である。

襲って来るところを、力づくで止める。

力は五分五分か?

やりあうこと数分。
別にカミソリで手を切ることも無かったのだが、

試しに

「痛いっっ」

と、叫んでみると、

男はいきなり弱気な顔になって
「だ、だ、だいじょうぶ?」とか言って来る。

コイツはずいぶんと小心者らしい。

「勝ったな」と私は思った。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
これはいつぞや見た夢のデキゴトです。
ボディガードされるのではなく、する話でした(苦笑)
何で宝塚の男役ばりに女を守ったりしているのかは分かりませんが(笑)、相手が極端に弱いヤツなので助かりました(笑)。

テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

CAFE友の会 第1回サロン
昨日、夜の部を見に行きました。

「CAFE友の会」第1回サロン
 ~お芝居と朗読とアクセサリーとカフェ~


看板が出ています。
061126comoncafe_01.jpg


地下へ通じる階段を下りてドアを開くと、
061126comoncafe_02.jpg



そこがコモンカフェ。
壁一面の本棚、反対の壁はスクリーン、そして正面にはカウンターとキッチン。

少し早めに着いたので、
カフェの中でお茶を飲んで、友達が展示している写真をみたり、話をしたり、ゆるりとくつろぐ。


そして時間が近づく。
2杯目にはカクテルなどオーダーして待っていると。
暗転。
お芝居がはじまる。

登場人物はカフェのマスターと店員と客と。
舞台はない。
観客も役者も、同じカフェ店内にいる。
隣のテーブルで、物語が展開していく。

そして1つのカフェストーリーが終わると、次は朗読が自然にはじまる。

私の書いた5つの作品は、2回に分けて、3人の女性が読んでくださいました。

文字に書いてあるものが音になるというのは、つまりは新しい物語が、そこに生まれた瞬間だなと思います。
今回は、朗読の方も、物語の内容に合わせて、動きを加えて読んでいたので、まるで舞台を見ているような、映像を見ているような気分になりました。

 声に出した瞬間に、
 物語が立ち上がって来る。


そんな感じがしました。

小説は私が書いたものだけれど、読まれた瞬間から、読み手の方の作品にもなるわけです。そして聴いている観客もそれぞれの読み方をしています。
間の取り方や、抑揚や、強弱やスピード、思い浮かべるイメージ、それらの集合体がその瞬間だけの作品を演出してくれる。
それが文字で書かれた物語の面白さでもあります。

そして私自身が「やっぱり物語を書くのが好き」だと強く認識した日でもありました。

終わってから、観客の男性と、マスター役(そして主宰者)の吉塚さんのお二人が「『彼の苗木』がよかったです」というようなことを言ってくださり、それもまたうれしく思いました。

昨日、来場した観客のみなさんが、音で5つの物語を聴いて、どう感じたのか。
印象に残った物語やフレーズなどがあったのか。
直接聞けなかったけれど、いろいろと想像をめぐらせています。

そして、このような形で作品を発表できる機会をいただいたことをとてもうれしく思います。


このような機会をご紹介くださり、そして朗読していただいた甲斐さん、作品を使ってくださった吉塚さん、作品を読んでいただいた池下さんと後藤さん、出演された役者のみなさん、スタッフの方々、どうもありがとうございました。

また機会があれば、いろいろな形でのコラボレートをいろいろな人たちとしてみたいと思います。


「こんなテーマの短篇書いてほしい」

そんな声がもしあったなら、ぜひご一報ください。

(なんとか、今日の更新にセーフ 笑)
台詞と説明
先日、一般の人たち(映画づくりは本当に初めてという素人のヒトビト)が作ったショートフィルムというのを観る機会があった。

脚本や撮影や監督や照明など、専門家の指導を受けながらも、すべて自分たちでつくったという5つの作品。

10分程度の作品であるがゆえ、どうしても台詞に説明的機能を課してしまっている部分があった。

これは私もよく分かる。

1200字のショートショートを書いていると、その長さでは書ききれないエピソードや背景まで盛り込もうとして、思わず(台詞を含めた)文章が「説明調」になってしまうことがある。
読み返すと「あらら」と思って(笑)、結局、必要のない設定をもう一度見極めて削る作業をすることになってしまう。

映像の中の台詞として聞いても、「説明調」の台詞はやはり浮いていた。

今回、朗読イベントで自作が読まれる、という状況になったこともあり、自然に聞こえる台詞……というか会話を書くポイントは何だろう、と改めて考えた。


 例えば、間。
 例えば、テンポ。
 例えば、受け答えの返事。
 例えば、特に意味のない会話。



言いたいことを書こう、書こうとして、ついつい必要のある情報を含んだ台詞を羅列してしまいそうになる時に、そういった要素(間や意味のない会話)をちゃんとバランスよく配合できることで、より一層、必要な情報が生きてくるんだろうな、などと思った。

そして小説の場合は、情景描写とのバランスも重要である。

情景がありありと浮かんでくるような自然な会話。
普段自分がしゃべっていることを考えれば簡単なようで、
実はなかなか難しい。

   * * * * *

いよいよ明日(というか今日)です。楽しみ。
↓ ↓ ↓
「CAFE友の会」第1回サロン
 ~お芝居と朗読とアクセサリーとカフェ~
no.15「マリコと猫と喫茶店」

(写真:神戸市灘区篠原南町の猫)


 ねえ、どうする?
 マリコに聞く。

 うーん、疲れたから、どっかでお茶飲もうよ。
 制服目立つしさ、先生に見つからないかなー?
 平気だって。

 マリコはこういう時は結構大胆。
 あたしたち、これでも実は授業中なのだ。
 校外学習。
 グループでテーマを決めて自由行動。
 ホントは5人組なんだけど、私たちは開始早々2対3になって別行動をすることにした。もちろん、グループ全員合意で。
 だってその方がラクだもん。
 あとでテキトーに見たものをすり合わせてレポート書いたらいいし。

 だからあたしとマリコは二人で京都をぶらぶら。
 京都、初めてだから、結構新鮮ではあったけど。

 それも飽きたのでカフェで休憩でもしようというわけ。

          * * * * *

 あたしたちは決められた行動エリアから少しはずれた道に入った。
 何となく、いい店がありそうな気がしたから。
 これはマリコの考え。
 ホントは、先生に見つからないように。
 こっちはあたしの考え。

 マリコの勘は、鋭い。
 思ったとおり、ちょといい感じのお店が見つかった。
 カフェって感じじゃなくて…喫茶店って感じかな。

 あたしたちは扉を開ける。
 先月亡くなったおじいちゃんくらいの年の人が、カウンターでコーヒーを点てていた。店内にいい香りが漂っている。

「いらっしゃい」
 声も何となく、おじいちゃんに似てる。

 ねえ、ヒロ、見て!
 マリコがはしゃいだ声をあげた。
 その視線の先には、グレイの猫が一匹。

 あたしは持っていたデジカメで撮ろうとカメラを構えた。
 途端に、猫はするりと窓辺からおりて、テーブルの下にもぐってしまった。

「ごめんねえ。そいつ、カメラが苦手なんだよ」
 おじいさんマスターがおしえてくれた。

 あたしとマリコはカメラ嫌いの猫が隠れたテーブルをはさんで、記念写真を撮った。

          * * * * *

 写っていないけれど、猫が確かにいる写真。
 これがあたしたちの秘密の思い出。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -(完)

この物語はフィクションです。
登場する場所のモデルはありますが、
登場する人物・団体名はすべて架空のものです。

このストーリーは今週の日曜日(11/26)の朗読イベントで読んでもらう作品のひとつとして書き下ろしたものです。
実はベースになったのは自分が実際にみた夢。
猫がいる喫茶店に友達と行くけど、猫がカメラ嫌いだった、という、ほぼこのストーリーのまんまのものでした。

たまには夢も役に立つ(笑)

ちなみに写真の猫は、とあるお店の看板猫のような野良猫(おそらく)。
夢026話「ハブラシ」
こんな夢をみた。

歯磨きを終えて、ハブラシを洗っていると、
何かがブラシの毛の間にはさまっている。

水で流してみると、それはどうやらお茶の葉っぱで、
洗っていると、次から次へとお茶っ葉が

ブラシから湧き出てきて

止まらない。

一体、いつまで洗っていればいいんだろう。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
これはいつぞや見た夢のデキゴトです。
ブラシにはさまっている時は黒い点のように見えるものが、洗面台に流れた途端にぶわっと広がって葉っぱの形になっていくという、カンジ。

某夢占いによれば、
「歯を磨いてもきれいにならないのは、乱れた食生活や不摂生な生活への警告。逆に、きれいに歯を磨くのは、体調の回復をあらわす」とのこと(笑)

歯はきれいになって、ハブラシはきれいにならない場合は……?

テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

【再告知】11/26 CAFE友の会 第1回サロン

以前お知らせした、「私の短篇を朗読してもらうことになったイベント」が、近づいてきましたので、再度、告知。

なお、朗読予定の作品は以下5作品です。

「ある夜の出会い」
「指定席」
「彼の苗木」
「子守唄」
「マリコと猫と喫茶店」
←11/25に掲載予定

「シンの家」は、もしかしたら読んでいただくかもしれませんが、これは未定。

私は、昼に用事が入ったので、予定通り夜の部に行くことになりそうです。
ミナサマに会場でお会いできるのを楽しみにしています。

(以下、再掲)
====================

「CAFE友の会」第1回サロン
 ~お芝居と朗読とアクセサリーとカフェ~


11月26日(日) 昼 夜 2回公演


COMMON CAFEにて



〒530-0015 大阪市北区中崎西1-1-6 吉村ビルB1F
http://www.talkin-about.com/cafelog/

12:00 open, 13:30 start
17:00 open, 18:00 start
入場料¥1,000-(1drink付き)


1.芝居「今日もcafe日和」 作/吉塚弘
  吉塚弘、中野蛍、戸谷陽子、三浦加洋子、鍛冶本賢人

2.朗読  作/中川紺
  甲斐祐子、池下敦子、後藤貴子

3.アクセサリー展示
  甲斐祐子、三木由香、広畑典子

4.出張カフェ
 cafe太陽ノ塔 http://www.taiyounotou.com

*予約制ではありませんが、座席の設営の関係上ご来場下さる方はご一報いただければありがたいです。
ご協力お願いいたします。

====================
夢025話「大きな砂時計」
こんな夢をみた。

目が覚めると四角い部屋にいた。
四方の壁が、すべて本棚で、出入り口らしきものがどこにもない。
自分がどうやって入ったのかは分からない。

本棚に並んだ書籍は、どれもかなり古いようだ。

部屋の真ん中に大きな砂時計があった。
もうすぐ上の砂が落ちてしまう。

私は立ち上がった。

砂時計をぐっと押す。
ゆっくりと、回転した砂時計は、また砂を落としはじめる。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
これはいつぞや見た夢のデキゴトです。
あとがき風~no.14「展望台を見た日」
no.13「風船男」no.14「展望台を見た日」と、灘の固有名詞を多用した作品が続いた。そんなこともある(笑)

意識してそうなったわけでもなく、「展望台~」の方は、このブログを立ち上げた時に、ネタ写真を探していて思いつき、公開するのは「最終営業日」であった11月24日の直前にしようと決めた。

ところがそのことをしばらく忘れていて(汗)、たまたま書きかけのあらすじファイルを開いて、冒頭に「11月20日にアップすること」とメモ書きしてあるのを見つけた。
自分で忘れないようにしておいたらしい(笑)
慌てて仕上げてアップした、というワケだ。
≫≫≫続きを読む

テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

no.14「展望台を見た日」
 六甲山に行こう、と言い出したのは、息子のダイキだった。

 いつだったか、駅でフィールドアスレチックの広告を見てから、何度もせがまれていたのだが、休日も接待やら持ち帰った仕事やらで忙しく、さほど遠いわけでもないのに出かけるのはなかなか難しかった。たまに何も無い休日があると、日頃の疲れもあって、一日惰眠をむさぼるようなことになり、やはり出かけられない。
 そうやって「そのうちな」を繰り返していたのだが、さすがに我慢の限界が近づいてきたらしく、小学一年生なりの反抗的態度を取るようになってきた。
 ある日妻が、「フィールドアスレチックの営業日って11月26日までみたいやけど」と耳打ちした。残すところ、あと1週間を切っていた。

 俺は、ようやく重い腰をあげた。
 ちょうど仕事の谷間で、有休をとっても差し障りが無い状況だったので、金曜日をそれにあてた。学校の創立記念日のためにダイキも休みだった。土日に行くよりは多少人も少なくて楽だろうと思ったのだ。

          * * * * *

 市バスに乗り換えて、六甲ケーブル下に着くと、ダイキのテンションはすでにかなり高くなっていた。
 妻も、「あのオルゴールのやつに一度行ってみたかってんよね」などと言って楽しそうにしていた。

 ケーブルを降りてからは、循環バスである。
 妻の希望の「ホールズ・オブ・ホールズ」にも寄り(ダイキも思いのほか興味を示していた)、ダイキにせがまれてソフトクリームを買い(この寒い中、ぺろりと平らげていた)、目的のフィールドアスレチックで汗を流し、気がつけば3時半を過ぎ、日もだいぶ傾いてきていた。
 途中で、「ここまで来たら、ついでだから有馬温泉にまで足を伸ばそう」ということになったので、俺たちは有馬へ向かうロープウェーの駅に向かっていた。

 そして、あれを見たのだ。

          * * * * *

 有馬温泉行きのロープウェーは、俺たち家族の他に、若いカップルが一組、老夫婦が一組、中年の女性3人組、合計10人の客を乗せていた。
 出発してしばらくすると、紅葉まじりの山の緑が、眼下に広がりはじめた。ところが、いきなり辺りが白っぽくなったかと思うと、異様に濃い霧がロープウェーを包んだ。
 いや、あれは霧だったのかどうか、あまりに一瞬のことでよく分からなかったというのが正直なところだ。

 乗客がざわつきはじめると、霧の中に何か建物らしきものが、現れた。

 その時、同乗していた老夫婦の夫の方がぼそりと言った。

「あれは、十国展望台やないか…」

 乗客全員が窓の外を見た。
 輪切りの円柱を重ねた、ケーキのような建物が、そこにあった。円柱の縁には柵がめぐらせてあり、たくさんの人がはりついて外を見ている。

「たしか、もう無くなったわよね、十国展望台って」
「そうそう。回るやつよね。たしか私、最後の日に見にきたわよ」
 中年女性グループのメンバーがひそひそと話しはじめた。

 俺は妻と顔を見合わせた。ダイキは何が起こっているのか、よく分からない顔をしていた。

 姿が見えたのは、あっという間だった。
 「十国展望台」は、また濃霧に呑み込まれ、次に霧が晴れた瞬間、辺りの風景は元の、六甲山の山並に戻っていた。

「さっきの何やったの……。だって…ねえ、みなさん、ご覧になったでしょう?」
 中年女性の一人が同意を求めた。
 乗客はみんな、静かに頷いた。

          * * * * *

 家に帰ってから、俺はいろいろと調べてみた。

 そして分かったのだ。

 「十国展望台」の最終営業日が4年前の11月24日。俺たちがあれを見た日と同じだったのだ。
 霧の中に一瞬見えたものは、2002年の、その最後の姿だったのだろうか。
 毎年こんなことが起こっているのか、他の時間に乗った乗客が同じ風景に出会ったのか、それは分からない。
 でも俺たち乗客10人は、ロープウェーが見せてくれたあの景色をきっと忘れないだろうと思う。


(写真:灘区・六甲有馬ロープウェーから見る十国展望台)

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この物語はフィクションです。
登場する場所のモデルはありますが、
登場する人物・団体名はすべて架空のものです。

山上にもう十国展望台の姿はありません。
写真は、2002年の11月24日、営業最終日に撮影したものです。

十国展望台については、メルマガnaddistの2002年10月30日号を読んでいただくのがよろしいかと。


さてさて、11月24日まであと4日。
本当に展望台が姿を現す……なんてことが起こる?

・・・といいなあ、と密かに思っているのでした(笑)

テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

夢024話「水牛」
こんな夢をみた。

ある集落に住む、体にマントヒヒによく似た鮮やかな模様を持つ水牛の群れが、
いかにして谷を隔てた隣村の、牛の群れに勝ったのか。

というドキュメントを見ていた。

水牛のすばらしい頭脳プレーの賜物だった。

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これはいつぞや見た夢のデキゴトです。

落ち着いて考えてみると、水牛の方がずっと強そうなんだけれど。
頭脳プレーの内容は、すでに記憶にない。

テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

ネタ帳
先日、テレビのチャンネルをまわすと「ソロモン流」という番組をやっていて、作家の村山由佳さんがゲストだった。


番組を見たのは一瞬だったが、ちょうど村山さんがカフェである小説の構想を練っているシーンが映り、「どんな風に作ってるのかな」と興味津々でそのシーンを見守っていた。

村山さんの物語づくりはノートとふせん紙。
思いつくエピソードや文や設定をふせん紙に書き込んではノートに貼り、それを並びかえたりしていた。
ビジネスマンもよく使う手法かもしれない。
いやむしろビジネスマン風?

私の場合は、とりあえず

ネタ帳。

無印良品の薄手のA5サイズノート(罫線ではなく方眼マスが入っている)が、持ち歩きにも適していて、長らく愛用している。旅行にも連れていきやすい。
仕事で「ふせんに書いて貼って整理する」行為を頻繁に行うせいか、小説づくりの時には無意識にそういう方法(ふせん活用)を避けきたらしい(笑)

ノートには細々した字で、思いついたストーリーや、人物設定や、タイトル(タイトルだけを思いついてしまうことも多々ある)や、夢の記録などをとにかく書いておく。

スケジュール帳の中にも白いページを常にストックしておいて、ノートを広げにくそうな電車の中などで思いついたら、メモするようにしている。
歩いている途中に思いついたら携帯メールで自分のPCに送っておく。
これらのメモも、あとでネタ帳にまとめて書くように心がけている。
(忘れてしまうこともよくあるけれど)


こんなノート。

061117note.jpg

字があんまりキレイじゃないので中身はご勘弁(笑)

中には青い色鉛筆で×印がいくつかついている。
使ったネタにはバッテンを付けておくのだ。


1つの作品用に1冊のノート、というパターンはまだやっていない。
こんど書きはじめる物語には、1冊のノートをあてがうつもりだ。
ふせんも使ってみるかもしれない。
人のマネを、すぐにしたくなるタチなので(笑)
夢023話「低予算」
こんな夢をみた。

人間サイズのイカが出て来る映画がテレビで放送されていた。
制作は海外のようだ。

何となく映画「いかレスラー」(邦画)のパクリに思える。

翌日、その映画の、パロディとして人間サイズの「ナマズ」が出て来る番組が放送されていた。

制作は日本のテレビ局であったが、どうやら予算が足りないらしく、逃げ惑う一般人のエキストラは

ほとんど人形である。

リカちゃん人形をはじめとして、レゴの人型まで混じっているのだが、遠目に見ると、上手く出来ていて、大した違和感も無い。
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これはいつぞや見た夢のデキゴトです。
実は今朝の夢。

なぜナマズなのかと言えば、昨晩、イッセー尾形が昭和天皇を演じている映画「太陽」を観に行ったせいだと思われる。

天皇が「ナマズ」について語る台詞があったのである。

テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

あとがき風~no.13「風船男」
短篇 no.13「風船男」は、ある音楽イベントに行った時に、思いついた。


それは「水道筋ミュージックストリート」

神戸市灘区の水道筋の商店街や市場にあるお店……うどん屋やバーやカフェが、この日(11/11)、ライブハウスになるイベントである。

ブルース、R&B、ゴスペル、ジャズなどなど様々なジャンルの15ユニットが、音魂を奏でた。
何組かのライブをハシゴしながら、商店街でお茶や豆乳も飲みつつ、夜の11時頃まで、たっぷりと音楽と商店街を堪能
(イベントは8時まで。終わったあとは商店街内の店でご飯を食べていた)

いい気分になりつつ、

短篇ネタを拾うコトは忘れてはいなかった(笑)


この日、商店街には黄色い風船がわらわらと漂っていた。

紺ノ短篇集もリンクしていただいている灘情報のグローカルサイト・ナダタマ(灘魂)がイベントに協賛していることもあっての宣伝風船。


そう、これが一画一話の短篇「風船男」で使った風船の正体
ホントは風船にはこんなプリントがしてあったのだ。

013_061111SMS3.jpg

道行く(主に)子どもたちに、風船がどんどん配られた。
アーケードの屋根には、手を離された迷子風船がどんどんたまってゆく。
ちょっと面白い。

013_061111SMS2.jpg

もちろん私も1つ養子に迎え、黄色いコを連れてウロウロ(笑)
帰りにはこのコを連れて駅のトイレにまで入ってしまった(笑)
天井に漂う丸いフォルムを見ながら、さっきまでの音楽の余韻に浸る私のアタマの中で、「風船男」の骨格が誕生していった。


ちなみに、さすがに電車には連れていく勇気が無く(笑)、ホームから夜空へ放流した。
風にのって、ふわふわと、音を封じ込めた(ような)風船(白丸のとこ)は、闇に消えた。

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どこかで割れて、音楽を奏でているかも、しれない。

テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

no.13「風船男」
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(写真:神戸市灘区・阪神大石駅にて)

 疲れた体を引きずるように、リュウジは大石駅の改札を通り抜けた。
 会社に泊まり込んでもう3日。さすがに今日は帰らんと。
 そう思って、何とか職場を後にしたものの、すでに終電が近い時間帯になっていた。
 終電の少し前の駅、というのは、意外なほどに人が少ない。各駅停車しか停まらないせいもあるかもしれないが、構内はしんとしていた。土曜日だから、かもしれない。

 止まったエスカレーターを見て、リュウジは迷わずエレベーターのボタンを押した。エレベーターだけは終電まで運転しているようだった。

 扉が静かに閉まる。
 壁に頭をもたれさせて深くためいきをついたリュウジは、ふと目線を上にあげた。その視界に黄色いものが飛び込んできた。
 予期していない先客に、少し驚いたが、正体が分かると表情がゆるんだ。

 風船だった。

 ヘリウムガスが入っているらしく、黄色いそれは、エレベーターの天井に頭をくっつけて、ゆらゆらと漂っていた。

 子どもが手放したものが、紛れたんかな。
 持ち主のいない風船と同乗するのは不思議な心持ちだった。
 エレベーターはすでに上昇を始めていた。ほどなくホームに着く。リュウジと風船を閉じ込めた箱は、カタンと動きを停めた。

 リュウジが外に出ると同時に、開いた扉から強い風が舞い込み、その勢いで、風船も外に流された。
 リュウジが風船を見上げるのと、風船がホームの天井にある突起物に当たるのが、同時だった。

 ぱん。

 そうやって割れるはずだった。

 しかし風船の破裂音は、リュウジにはまったく聞こえなかった。
 代わりに、風船があった場所から、音が降り注いだ。

 いや、正確には、音楽が、辺りにふわっと広がった。

 ブルースハーモニカの音色だった。

 リュウジはそのまま、風船の音楽に聴き入った。この3日間の疲れを、忘れさせてくれる、音だった。聴きながら、昔よくライブハウスに通っていたことを思い出していた。
 1分ほどで風船の演奏は終わり、我に返ったリュウジは辺りを見回してみたが、割れたはずの風船のかけらはどこにも見当たらなかった。
 まるで、最初から存在していなかったかのように。

          * * * * *

 別の場所にも、黄色い風船は出現した。
 タクシーで帰る途中で軽く車酔いをしたカズミは、一番近くにある王子公園駅で車を降り、駅のトイレに駆け込んだ。
 冷たい水で顔を洗って、少し落ち着いて鏡を見ると、黄色い風船が天井のあたりをウロウロとしていた。

「入ってきた時、こんなんあったっけ・・・?」

 反射的に、風船から下がった糸をつかむと、風船はゆらりと動いて、突然破裂した。
 もっとも、思わず耳をふさぎそうになったカズミに聴こえてきたのは、割れた音ではなく、ピアノに合わせた澄んだ女性ボーカルの声だった。

「きれいやわ・・・・・」

 この現象の不可解さを考える前に、カズミはその歌声に魅せられていた。
 気がつけば胸の気持ち悪さも、すっかり消えていた。

          * * * * *

 この日の夜、この町の、ありとあらゆる場所に、黄色い風船が現れ、ひっそりと誰かの上で、様々な音楽を奏でた。

          * * * * *

 真夜中、高架下を歩いている一人の男がいた。手には黄色い風船をいくつも持っている。
 男が昼間に、水道筋商店街で開催された音楽イベントに紛れて、黄色い風船を配っていたことは、もう誰の記憶にも無い。
 夜道を歩きながら、時々風船を放し、そしてそのまま夜の闇に消えていった。
 男の手を離れた風船は、意思を持っているかのように、どこかを目指してそれぞれ飛んでいった。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -(完)

この物語はフィクションです。
登場する場所は実在しますが、
人物・団体名はすべて架空のものです。
写真はストーリーのイメージ源になったものです。

11/11(土)に開催された「水道筋ミュージックストリート」で、ちょっと思いついたオハナシでした。詳しくはまた「あとがき風」で書く、かも。

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キリ番2222設定します
なぜか昨日のアクセス数が120を超えている!

どうやらまとめ読みをしてくれた常連さんが数人……(笑)
ちなみに毎日平均はだいたい30カウント程度。
といっても、14の日もあれば69の日もあったりするので、幅はあるけれども。

9/18に開設してから、旅行期間を除けば、毎日更新のペースは続いている。
ここまで続くと、
崩したくなくなるのが人情(笑)

どこまで「毎日」続くだろう。。。

訪問ペースとしては、
毎日訪問がだいたい3割。
次いで、1~2週間に1回訪問が2割といった感じ。
2日~6日おきの人をまとめたら5割近かった。

あとOS。
Windows xp 率が6割。
やっぱり Win 勢力強し(笑)
ちなみに私は、Mac OSX。
Mac率は25%~30%。
健闘してる、してる(笑)

と、そんなことも分かるアクセス解析。
オランダ在住の友達に連絡をしたので、最近はオランダからのアクセスもある。


面白いのは、5の倍数日(短篇更新日)が、他の日よりも少しだけアクセス数が増えること。
「5の倍数に短篇更新」を宣言している意味がちゃんとあるんだなあと、少し面白く思ったりした。

* * * * * * * * *
さてさて、
次の訪問カウンターのキリ番

2222

とします。

キリ番を踏んだ方は、よろしければお知らせ&お題出しを。
人に出してもらったお題で書く面白さに、ちょっとハマっていたりします。

単に、自分で考えるのが面倒なだけ?

そういうことも、多少はあるかもしれませんけれど。。。(笑)
夢022話「藤棚とビリヤード台」

こんな夢をみた。

自分が卒業した小学校にいた。

藤棚の方に何かを感じて、近づいてみた。
下に、テーブルが置いてあるように見える。

もっと近づくと、それがビリヤード台であることが分かった。

はっ。

何かの気配を感じた。


茂った藤棚の藤の中に、光る眼が見える。
ビリヤード台の後ろで、が動いた。
ごそごそと音がして、それぞれの正体が明らかになる。

大きなヘビと大きなトラが、

藤棚の上と下で、にらみ合っているのだった。
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これはいつぞや見た夢のデキゴトです。

いかにも夢っぽい。
藤棚とビリヤード台と虎と蛇と。
まったく脈絡のないものが(虎と蛇は、まあジャングルで闘ったりするかもしれないけれど)、いっぺんに登場して、それに違和感がない。
ちなみに、夢の中ではこの状況にまったく恐怖を感じてなかった(笑)
カタカナ名の考え方(思い出)
小学校・中学校時代、下手なマンガを自由帳(懐かしい・・・笑)に書いていたことがある。

マンガを書く事が好きというよりも、ファンタジーものの設定を考えることが好きだったようで、架空の国、架空の町、架空の生き物、架空の名前、辞書と地図帳を片手にそういうものをいろいろ考えてはノートに記していた。
なぜ地図帳がいるのか、と思われるかもしれないが、実は地図帳も私にとっては辞書と同じように単語の宝庫だった。

今現在書いている小説に出て来る場所の名前や人物名などは、ほぼ100%近くが日本人名であるけれど、この頃は

「カタカナ」と「当て字」

取り憑かれていた感がある。

カタカナ、ということはつまり、外国である。

いや、正確には「外国風」(笑)

しかしカタカナで書けば何でも外国風になるかといえばそうでもない。
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夢021話「彼女は家に帰りたい」
こんな夢をみた。

私は病院である女性と知り合った。
彼女は、生まれてすぐに子どもを亡くし、夫も早死にしてしまったという。

彼女は私に言った。

自分にはもう一人子どもがいる。
亡くなった子が眠る寺の納骨堂の裏には、隠し部屋があり、そこにもう一人の子を密かに育ててもらっている。
自分の余命はもう長くないので、子どもをそこから連れ出して本当の家を見せてやりたい。
力を貸してほしい。

私は彼女とともに病院を抜け出した。
隠し部屋を探し当て、中に入ると、その子は確かにいた。
まだ2歳にもならないくらいだ。
しかし病を患っているようで、顔色はすこぶる悪い。
これはもうあまり保たないかもしれない、と思われた。

彼女は子どもを抱きかかえた。
私たちは、彼女の家へ急いだ。

彼女はひたすらに願う。

「家に着くまで、生きて。そして次に生まれ変わったら、必ずこの家に帰ってきて。お母さんもきっと生まれ変わってまたここに帰ってくるから」

私も願った。二人に。「生きて」と。
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これはいつぞや見た夢のデキゴトです。
なぜ子どもは納骨堂で育てられていたのか。
そこんところは永遠に謎のままなのだが………。

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no.12「むこうむきうさぎ」
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(写真:三重県の熊野古道付近から見た三日月)


 仕事から帰ってくると、モチがじっと窓の外を見つめていた。
 いつもならケージの中でこっちを向き、ふんふんと鼻をならしてお出迎えしてくれるのに、なぜか今日は無視、である。
 よく見れば、いつも完食しているエサの野菜も、放ったらかしになっていた。

「ちょっと、モチってば」

 私の少しとがった声に、長い耳をぴくんとふるわせたものの、やっぱり窓から目を逸らさない。
 その名の通り、お餅みたいに丸くて白い背中を撫でても、反応してくれない。
 ところがカーテンを閉めようとした途端、モチはきゅふんと鼻をならして、こっちに向き直った。その瞳は、明らかに「閉めちゃダメ」と言っていた。

 仕方ないなあ。と思いながらも、さすがに夜中にカーテンを開けていると向うから丸見えで不用心なので、モチのケージを動かして、カーテンの中に入れ込み、外が見えるようにしてあげた。
 モチはまたご機嫌になって、外を眺めていた。
 その視線の先は、どうやら月のようだった。

 今日の月はまんまるだった。
 たしか満月の頃だろうか。新聞の月齢欄なんかいつも読み飛ばすので、はっきりしたことは言えないけれど。

 ウサギが月に住んでいる、という民話も、モチの姿を見ていると、一割くらいは本当なんじゃないかと思えるなあ。
 といっても、こんなことは今日が初めてだった。これまでにも満月は何度も何度もめぐってきているはずだけど、モチが月に興味を示すなんてことはなかったのだ。
 今日の月は、何か特別なのかな。

 そんなことを思いながら、私は眠りについた。

          * * * * *

 夢の中で、モチは月に帰ると言った。

 行かないでよ、と私はお願いしたけど、モチにとってのふるさとはやっぱり月だからしょうがないの、とモチは説明した。かわいらしいけれど、しっかりとした声だった。

 モチ、これからはもっと早く帰ってくるから。
 寂しい思いはできるだけさせないから。
 エサも奮発してあげる。
 ねえ、モチは私と離れても平気なの?


 私はありったけの、思いつく言葉を並べて、モチを引き止めようとしていた。

          * * * * *

 目が覚めると、部屋の中はいつもと同じで、でも起き上がった私はいつもの場所にモチがいないことに一瞬動揺した。
 そしてすぐにケージを窓際に置いたことを思い出して、そっとカーテンを引いた。

 モチは真っ白の体をくるんと丸めて眠っていた。
 耳だけがぴんと立っていて、少し斜めから顔をのぞきこむと、その姿は何かに似ていた。


「あ、津和子の家の」


 この前の日曜日。
 近所の女友達の家にモチを連れて遊びに行ったのだが、その家のふすまの文様が珍しいウサギの形だったのだ。
 横を向いたウサギが3羽重なって並んでいるシルエットは、ぱっと見た感じではウサギには見えないのが面白かった。

「向うむき兎っていう伝統の文様なんだって」
「むこうむきうさぎ?」
「月と兎が合わさった形だっておしえてもらったのよ。ちょっとカワイイでしょ?」

 津和子のダンナさんは京都の和紙職人さんとおつきあいがあるらしく、その彼がこれを選んだと言っていた。
 モチは、津和子や私に抱かれている間も、ずっとふすまの方を気にしていた。私たちはてっきり向うのキッチンから食べ物の匂いでもするのかと思って笑っていたけれど、どうやらモチの興味はこの「向うむき兎」だったらしい。

 あの文様を見てしまったせいで、月と自分の関係性にちょっと目覚めてしまったのかもしれないけれど。

「でも月に帰るのは許しませんからね」

ちょっとふざけて声に出してみた。
白くて丸いモチの背中がぷるっとふるえた。

やっぱりモチは餅っぽいなあ。
今年のお正月の鏡餅はモチにやってもらおうかな。
私は夢の出来事をすっかり忘れて、そんなヘンなことを考えていた。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -(完)

この物語はフィクションです。
登場する場所のモデルはありますが、
登場する人物・団体名はすべて架空のものです。
写真はイメージで、文とは一切関係ありません。


ここからは、あとがきを少し。
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本004話『どこにもない短篇集』原田宗典 著
今では自分さらけだしの爆笑エッセイもかなり出している原田宗典氏。
もちろんエッセイも好きだけれど、短篇集がまた、同じ著者とは思えない静かなる不思議テイストでやめられない。

その短篇集モノの中で、最初にハラダ作品と出会ったのが、『どこにもない短篇集』だった。


手元にあるものは、1993年に徳間書店から出た単行本なのだが、amazonやbk1では表紙の画像が入っておらず、唯一、セブンアンドワイでは、1997年発行の徳間文庫のバージョンに表紙があったのでこちらをリンクしている。
でも実は、単行本と文庫では、似ているけど、絵が違う。
これは持っている人にしか分からないと思うけれど、気になる方は図書館か書店で探してみてください(笑)


さて本題。
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夢020話「立体サラダ」

こんな夢をみた。

雑誌を開いてみると、
見開きの両ページそれぞれに、
5センチ角の小さなマスが縦3×横3で合計9つ描かれていて、
そのマスの中には、それぞれ違う種類のサラダの写真が掲載されている。
あとは白い余白。
サラダ特集?

視界がちょっとゆがんだように思えて、瞬きすると、
それらのサラダが、雑誌からむくむくと盛り上がって

実体化しはじめた。

5センチ角のサラダ18種類、
雑誌の白いページをお皿にして乗っかっている。

ドレッシングのいい香り。
どれから食べるか、迷ってしまう。
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これはいつぞや見た夢のデキゴトです。

ドラえもんの道具でこういうことができるの、ありましたっけ?
料理雑誌が実体化すれば楽でいいなあ、
などとどこかで考えていたのかもしれません。
サラダ、食べる前に、目が覚めてしまいました。残念(笑)

テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

【おしらせ】朗読会に出演決定!(11/26日開催)
出演、といっても、私が朗読するわけではありません(笑)
アタリマエですね(笑)


なんとなんと。

私・中川紺の作品が使われるのでございます(なぜかていねい…笑)
作品が出演するわけですね。(クドイ)


時は、今月の最終日曜日→11月26日(日)。

大阪の中崎町にあるカフェで、「CAFE友の会」の第1回サロンが行われます。
ショートストーリーの朗読とお芝居がオムニバスで展開されるのですが、その中での朗読部門?(部門というのもヘンですが 笑)で私の短篇が6つほど朗読されるワケです。

しかも・・・
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夢019話「トイレの●●さん」
こんな夢をみた。

私は、高校のトイレに出没する幽霊になっていた。

トイレは2階にあって、1階は駐輪場である。
下校前の生徒が時々利用するトイレだった。

ある日、女子生徒が私を見てしまい、彼女は飛び降りて死んでしまった。
私はどうしていいのか分からなかったし、どうしようもできなかった。
姿を消す事はできないのだ。
幽霊だけど、何だか悲しかった。

先生に訴えてみようかとも考えたが、
先生には私の姿が見えていないようだった。

「トイレの●●さん」のウワサが、どんどん広まっているようである。
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これはいつぞや見た夢のデキゴトです。

まあ、夢の中ではいろんなモノになるわけですが……

トイレの花子さんになってしまいましたよ……(笑)
no.11「子守唄」

(写真:神戸市灘区新在家にあるカフェのスイーツ)


 買い物の帰り道、ゆうながまた愚図りはじめてしまったので、私は方向転換をして家とは反対の方に向かって歩きはじめた。
 もうあと少しで家に着くというところだったのに、ホントにこの子、見計らったみたいに泣き出すんだから。

 こんな風になったら、もうダメ。
 ベビーカーを止めて抱っこしてみても、大好きなリンゴジュースをあげても、お気に入りのうさぎのぬいぐるみであやしてみても、ゆうなはぐずぐずと泣いている。
 まだ1歳になったばかりの彼女は、それしか伝える術がない。
 大きな声を張り上げないので、まだ助かっているんだけれど。

 さてさて、それじゃあやっぱりあそこに行こうね。

 私はゆうなに話しかけて、いつもの場所を目指した。

          * * * * *

 家からはそれほど離れていないところに、そのカフェはある。
 丁寧に入れたコーヒーの美味しさと、お茶菓子みたいな小さなスイーツが売りの、かわいいお店。

 今日のスイーツは「オレンジタルト」。

 扉を開けると、マスターはすぐに、ゆうなのご機嫌を察して、BGMを彼女のお気に入りのナンバーにさりげなく替えてくれる。

 私はカウンターの一番奥のいつもの席に座ると、ゆうなを彼の手にあずける。
「ごめんね、ちょっとだけ」

「ゆうなちゃーん、どうしたのかなー」
 この瞬間、彼はマスターではなく『父親』の顔になる。

 ゆうなは一瞬にして愚図っていたのをやめて、父親に甘えはじめた。

          * * * * *

 会社を辞めた彼が、この店を開いてもう2年が経った。

 「会社、辞めようと思う」と彼が言ったとき、私は「きっと何とかなる」という変な自信があって、二つ返事でOKした。
 それからしばらくして、ゆうながお腹にいることが分かった時は、さすがに生活大丈夫かな、と思わなくもなかったけれど、それでも何とか今までやってこれた。

 彼の手が空く時間帯に、私はゆうなを連れてお店に顔を出す。
 できるだけ娘と父親の時間を過ごせるように。
 ゆうなも何かを感じているのか、すっかり父親っこになっている。

 とはいえ、お客さんが入って来るとそうもやってられないので、彼をマスターに戻さなければならない。

 一泣きして疲れたゆうなは、私の腕に戻ってくると、うつらうつらとしはじめた。

 スタンダードジャズのナンバーが流れている。
 彼が大好きで何度も聴いていたこの曲は、ゆうなにとっては子守唄。

 あどけない顔で眠るゆうなを見ている私の前に、彼は「食べる?」と、そっとオレンジタルトを差し出した。
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この物語はフィクションです。
登場する場所のモデルはありますが、
登場する人物・団体名はすべて架空のものです。
写真はイメージで、文とは一切関係ありません。

テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

NHK朝ドラ「芋たこなんきん」のこと
週に10時間をドラマに費やしている私は、自他ともに認めるドラマニア(笑)、なわけだけれど、別にここでドラマ評を書くつもりはない。

10月からスタートした朝の連続テレビ小説。
「芋たこなんきん」

作家・田辺聖子さんの半生をモデルにしたドラマ。
ヒロインを藤山尚美さんが演じている。
やっぱり上手いなあ。
配役にも「関西出身」を多用しているので、ヘンな関西弁を聞かなくて済むのがよい。
これまでの朝ドラと違って、幼少時代と大人時代とを織り交ぜながら、テンポよく構成してあって、笑いの配分もなかなか絶妙だ。

・・・おっと、ドラマ評じゃなかったんだった(笑)

このドラマで思い出す事があるのだ。
≫≫≫続きを読む
夢018話「プライベート・バス・ルーム」
こんな夢をみた。

画期的なバスが走っているというウワサだ。

どんな車体? どんな設備?
気になって見に行ってみると、外観は他の路線バスと何ら変わらない。

乗ってみて、驚く。
どの座席の周囲にも、個々に間仕切りの壁があるのだ。

ひとつだけ壁の無い席があった。

とある停留所で、一人の男性が乗ってきて、そこに腰掛けた。
その途端、彼の座席のまわりに、ホログラムのように囲いが出現した。
そっと触ってみると、なるほど、映像ではなくちゃんと実体があるのだ。

どうやら「座ると仕切りで完全個室になる」システムらしい。

科学の脅威。
たしかに画期的だ。


放課後になると、中高生たちが中でひっそりと手紙を読むために、このバスに殺到しているという。
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これはいつぞや見た夢のデキゴトです。
夢の中に出て来る乗り物で最も多いのは電車。
(別に鉄道マニアでは無いです。念のため 笑)
次いでバス。
(もちろん、バスマニアでも無いです。笑)
そんなバス夢のひとつでした。
車は、運転をしないせいか、出現することが滅多にありません。

しかし「携帯メール」ではなく「手紙」であるところが何とも古めかしい(笑)
検索ワード(2006年10月まとめ)
10月いっぱいの検索ワードとして複数ヒットしたものといえば・・・・・


『それからはスープのことばかり考えて暮らした』吉田篤弘


関係の言葉でした。
(本の題名、著者名の他に「暮らしの手帖」「トロワ サンドイッチ」も含む)

発売時期(2006年8月)からそれほど間も無かったことも多分に影響した模様。

その他の複数ヒットは、

「灘駅」(やはりナダは強い! 笑)
「バールリベルタ」(六甲道のイタリアンバール)
「中川紺」


となりました。

ヒット数は大した数ではないのですが、こうやって解析すると、なかなか興味深いものです。
「灘駅」や「バールリベルタ」など、場所の検索からたどり着いた方が、このブログ(短篇)を読まれて、一体どんな感想を持ったのか、聞けるものなら聞いてみたい気もします。

今後もこういう偶然のつながりを期待して、場所や町の名前をストーリーに盛り込んでみたいと思います。
夢017話「食べてみない?」
こんな夢をみた。

「これ食べてみない?」
と言われて手渡されたよく分からない塊を呑み込むと、そこらじゅうの金属のパーツが体にくっつきはじめた。

原因はあの塊であることには間違いない。
私の体はこれからどうなるのだ?
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これはいつぞや見た夢のデキゴトです。

映画「鉄男」のようなカンジ、かもしれない。

といっても、この映画、観た事はないのだけれど。
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