FC2ブログ
書く人・紺の短編作品と書き物雑談。猫好き、本好き、空想好き。写真と言葉と夢から紡ぎ出す、ささやかな物語。
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
本019話『朝日のようにさわやかに』恩田陸 著
本019_朝日のようにさわやかに

邪悪な気持ちになったり、ぞっとしたり、よくわからなかったり、ほっこりしたり、せつなくなったり。
読み手の読後感もくるくると変わる、いろんな具材の入ったお雑煮みたいな短編集である。

恩田さんは基本、長編作品が多いのだが、私はあまりその長編をたくさん読んだことがない。というか、長編をいきなり読むことが少ない。
この短編集は『図書室の海』以来、2冊目であるけれど、短編集をきっかけに長編を手に取ることの方が多いのだ。

だから今回も同じ。

本作の中の「水晶の夜、翡翠の朝」を読んでヨハン君に惚れてしまったので、『麦の海に沈む果実』『黄昏の百合の骨』を読まなきゃ!と思っている次第。
(「水晶~」は上記2作品のシリーズ番外編なのである)



さて、本作は作品の長さも様々だ。
はっきり言って、よく背景の設定が分からないままに終わるものもいくつかある。(「卒業」とか「ご案内」とかね)
でもその切り取られたシーンのような短い作品に使われた言葉たちは、巧みに組み合わさって世界を構築していき、私はぐいぐいと物語に入っていけるのだ。
そして、ああいうことかも、こういう場所かも、と妄想想像を膨らませる楽しさを満喫する。

短編の醍醐味ってそこにあると思う。
数十枚では書き切れない世界を、泳いで探す楽しみ。
そしてかっちり決められた世界ではないがゆえに、日常のあちこちでふと作品の世界観を垣間見る機会があったりして。(あ、これってあの作品みたい!というふうに)


最後に。
「ご案内」は讀賣新聞掲載時のイラストは、日本画家の町田久美さんの作品だという。
それはぜひとも見たかった~!
気になる方は、ぜひ「町田久美」さんで検索してみてください。
私、このタイプの絵が、とても好きでして(笑)

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
 朝日のようにさわやかに(文庫版)
 恩田陸 著
 2010年6月発行
 新潮社 552円(税別)
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

これまでに読んだ本のコトをつらつらと紹介していきます。
スポンサーサイト

テーマ:ブックレビュー - ジャンル:小説・文学

即興MENU#2-020「ティファニーのチョーカー」
即興2-20_チョーカー

 水の中をじっと見つめたまま、占い師である老女は黙っている。時折、銀の器にかざした両手をゆっくりと動かし、器を満たした水面に何かを見ているようだ。

 そのうちに水紋が円を描きはじめる。器の中心から、わきでるように次々と。

 私にも何かが水面に見えた気がした、と思った瞬間、老女は静かに、すばやく、水の中に手を入れると、何かをひっぱり出してきた。

           * * * * *

「あんたが失くしたものは、これだね」

 彼女が私に差し出した品を見て、私は息をのんだ。
 それは、チョーカーだった。黒革とシルバーの、とてもシンプルなチョーカーである。でも私にとっては特別なものだった。

 ニューヨークのティファニーで買ったそれは、何年も前に、向うに住んでいた頃のものだ。かけだしのカメラマンだった私。雑誌に小さな写真がはじめて掲さいされた自分へのごほうびで買ったのだ。
 それなのに、数ヶ月後、盗まれてしまい手元から離れてしまったもの。
 今、やっとまた、再会することができた。

「ありがとうございます」

 私は占い師に告げた。
 写真家としての人生、もうすこし続けてみようと思った。
 
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -(完)
これは即興で書き上げた掌編作品。
お客様に「材料」=お題を決めていただき、
短時間で「調理」=作品化するという実験的試み。
実際は原稿用紙等に手書きしたものを、
テキスト化してweb上で公開しています。
明らかな誤字でない限り、書き上げてからの手直しはしないのが原則。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

【作品DATA】

本日の創作メニューは「水の中」
 お客さまの選んだ材料(=持ち物)で、
 “水の中”ではじまる短いお話を
 お作りします。
 それは、
 今日限りの、小さな物語。

[お客様]…初来店の女性
[お題]…ティファニーのチョーカー
[創作日]…2010年6月19日(土)
[創作場所]…摩耶山 掬星台
摩耶山リュックサックマーケットにて)


霧がすごくて出店数はいつもの5分の1くらいだった摩耶山リュック。
お客さんはゼロかもと思っていたら、初来店の方が立ち寄ってお買い上げくださいました!
お題になったかっこいいチョーカーはティファニー製ですが、パッと見はティファニーとは分からない感じで、それが素敵です。
ブランド物には縁がないので、うまく調理できるかしら…とドキドキでしたが、「ニューヨークのティファニーで買った」というお話を伺ったので少しずつイメージがまとまりました。
進むべき道が見えなくなった人に、自分自身の心を「物」という形でみせる占い師のお話、でした♪

テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

即興MENU#特別編「幻の島」
即興2-sp2_幻の島


 大型客船の船長は、夜の闇の中に、あの船を、確かに見た。
 これで無事、目的地へ着けるな、と小さくつぶやいた。

           * * * * *

 昔々、小さな島があった。
 二つの集落が北と南にそれぞれあり、一ノ邦(くに)、二ノ邦(くに)と呼ばれていたが、集落の境である島のまん中の小高い丘には、木立が国境のように並び、人々の行き来はなかったという。

 ある日、一人の若者が一ノ邦に流れついた。はるか遠く、英(はなぶさ)ノ国から来たという。彼は、親切にしてくれは集落の人々へのお礼に、持っていた花の種を境界の木々の根元に植えた。
 花は二つの集落それぞれに咲き広がっていき、やがて一ノ邦と二ノ邦の人々は交流をもつようになった。
 何年か時が過ぎ、二ノ邦の占い師が言った。

「近いうちに大きな災いがやってくる。この場をはなれなければならぬ」

 島の人々は、生まれ育った島を捨てたくはなかった。その思いは今や島人となった英ノ国の男も同じで、彼は境界の木立に大きな布をはることを提案した。
 布は風を受けて帆となり、やがて島はゆっくりと動き出し、次の海へと消えていったという。

           * * * * *

 今でも、船となったその島は、どこかの海を航海し続けてるという。
 そして、その姿を見た船は、順風満帆の旅ができると、信じられているそうだ。

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -(完)
これは即興で書き上げた掌編作品。
お客様に「材料」=お題を決めていただき、
短時間で「調理」=作品化するという実験的試み。
実際は原稿用紙等に手書きしたものを、
テキスト化してweb上で公開しています。
明らかな誤字でない限り、書き上げてからの手直しはしないのが原則。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

【作品DATA】

「今回は特別編

[お客様]…英治さん
[お題]…英・邦・航・満帆の文字を使った物語
[依頼日]…2010年5月15日(土)
[依頼場所]…摩耶山 掬星台


このお話は、5月の物語屋で注文を受けたものです。
ブログを読んで気に入ってくださり、家族の名前を使った物語をぜひ何かとのことでした。
イギリスを表す「英」、日本を表す「邦」、それらを船で結ぶ「航」、そして順風満帆の「満帆」というのが、4人のご家族のお名前にそれぞれ入っておられます。
この組合せだけでも素敵すぎて、私も「じっくり考えたいので時間を少し下さい!」と持ち帰りました。
で、気合いが入りすぎたためになかなかまとまらず(笑)、6月のリュック前日になってようやく作品となりました。
英治さん、お待たせして申し訳ありませんでした~!

架空の国での、海にまつわる物語、いかがでしたでしょうか?
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

<ちょこっと解説>
今回はそれぞれの漢字が持つ意味をベースに物語を作りました。
以下、意味を簡単に記します。

※英:草の花、花房、すぐれた才能
 邦:田の境界に木を植えることから、国の境界や国をあらわす
 航:舟でわたる、舟を二つ並べる
 帆:風を受けて船を進ませる幕、帆をあげること

テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。