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書く人・紺の短編作品と書き物雑談。猫好き、本好き、空想好き。写真と言葉と夢から紡ぎ出す、ささやかな物語。
即興MENU#2-016「ぶた鞄」
即興2-16_ぶた鞄

「芽が出たんだけど、どう思う?」

 私は出張先のホテルからかけた電話で妻にそう言ってみた。しかし妻は、何バカなこと言ってるの、と、全く信じてくれない。それはそうだ。鞄から芽が出てるなんて、私だって意味がわからない。
 ケイタイで写真をメールしてみたところで、つまらない合成写真で遊んでないでさっさと寝ろと言われるのがオチだろう。
 でも確かに発芽したのだ、私の鞄から。鞄の底から緑の双葉が、四ヶ所も。
 
           * * * * *

 仕事の道具からプライベートのものまで、詰め込んで、いつもパンパンにふくらんでいる黒いビジネスバッグを、私は「ぶた鞄」と呼んでいる。使いなれているので、どこに行くのにも持っていくので、そりゃどこかで種の一つや二つ、くっつけてくることもあるが、そんなことでいちいち発芽していたら、今ごろ草まみれだ。
 いくら考えたところで、謎はとけないまま、私は眠りについた。

 翌朝、鞄の底の四隅から出てきた芽は、小指の太さほどの枝に成長していた。長さは一、二センチほどなので、枝というよりはコルク栓みたいなものだが。

 改めて鞄の裏をしげしげとながめて、傷だらけになっていることに気づいた。
 床に置くと四つの小枝が足となって鞄の底を守っている。

 今日から私のぶた鞄は、足つき、である。
 
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これは即興で書き上げた掌編作品。
お客様に「材料」=お題を決めていただき、
短時間で「調理」=作品化するという実験的試み。
実際は原稿用紙等に手書きしたものを、
テキスト化してweb上で公開しています。
明らかな誤字でない限り、書き上げてからの手直しはしないのが原則。
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【作品DATA】

本日の創作メニューは「芽が出た」
 お客さまの選んだ材料(=持ち物)で、
 “芽が出た”ではじまる短いお話を
 お作りします。
 それは、
 今日限りの、小さな物語。

[お客様]…初来店の男性
[お題]…ぶた鞄
[創作日]…2010年5月15日(土)
[創作場所]…摩耶山 掬星台
摩耶山リュックサックマーケットにて)


よく摩耶山リュックでお会いする男性の方が、初めてご来店!
持ち物と言っても鞄くらいしか……ということで、大きな鞄をお題にいただきました。「ぶた鞄」というのは、お客さまが実際に鞄につけておられる愛称です。
大きくて重そうな鞄だったので、自衛策として、足が生えるお話にしてみました。
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