書く人・紺の短編作品と書き物雑談。猫好き、本好き、空想好き。写真と言葉と夢から紡ぎ出す、ささやかな物語。
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即興MENU#3-051「生ノ話」
即興3-51_生

 めがねがとても、似合う人だった。
 もちろん外した顔も好きだったけど、ひとたびめがねをかけると、数段イイ男になるのだった。

 そんな彼も、もういない。
 私に残されたのは、この青いフレームのめがね一つなのだ。

           * * * * *

 彼とのつきあいは、それほど長くはなかったけれど、私たちはまるで三十年連れ添った夫婦のような気持ちで、最後をすごした。

 家族ではない私は、このめがねしか、受け取ることができなかったけど、それで十分だった。

 私がこのめがねを大好きだったことを、彼はちゃんと分かっていて、そのことをメッセージとして残してくれていたそうだ。

 彼が好きだったのは、私の家の小さな庭だった。
 縁側に座って、飽きもせずに眺めては、いいねぇと、くりかえした。

 そうだ。

 私は立ちあがると、庭へおり、彼が大好きだったキンモクセイの木の根元に、小さな穴を掘り、形見のめがねを埋めた。

           * * * * *

 あれから一年。

 めがねを埋めた場所から、小さな芽が生えてきた。

 その小さな命を育てることが、今の私の幸せである。

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -(完)
これは即興で書き上げた掌編作品。
お客様に「材料」=お題を決めていただき、
短時間で「調理」=作品化するという実験的試み。
実際は原稿用紙等に手書きしたものを、
テキスト化してweb上で公開しています。
明らかな誤字でない限り、書き上げてからの手直しはしないのが原則。
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【作品DATA】

本日の創作メニューは「めがね」
 お客さまの選んだ材料(=漢字)で、
 “めがね”ではじまる短いお話を
 お作りします。
 それは、
 今日限りの、小さな物語。
(漢字ノ話・五十三次シリーズ)

[お客様]…初来店の女性
[お題]…生(せい・なま)
[創作日]…2012年5月19日(土)
[創作場所]…摩耶山 掬星台
(摩耶山リュックサックマーケットにて)


お題をいただいて、ぱっと思いついたのは「生」と「死」。
切っても切り話せないこの二つの意味を盛り込んで紡ぎました。
私が描くとあまり重くならないので、うまく伝わるのか分かりませんが、
ひとつの終わりは必ず次の始まりに続いている、そんな循環の物語です。
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