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書く人・紺の短編作品と書き物雑談。猫好き、本好き、空想好き。写真と言葉と夢から紡ぎ出す、ささやかな物語。
no.19「マナの卵」
マナの卵_宝塚ファミリーランド
(写真:今はなき、宝塚ファミリーランドにて)


 マナがたまご料理を食べなくなった。

 お気に入りの絵本に出てくる、ひよこのピヨちゃんが生まれて来る卵と、目玉焼きを作る時の卵が、同じものだと知ったのだ。

 自分が食べていたたまごの中身が、ピヨちゃん(ひよこ)であると分かった時のマナのショックは大きかった。
「マナ、もう食べないもん。かわいそうだもん」
 断固として、卵を使ったものを口にしなくなった。
「せっかく卵アレルギーも無いんだから、食べてよお」
 私はトホホな気分でマナに言う。
 食べないだけでは無い。卵を使わせてもくれなくなってしまった。

「ママ、ダメ。ぜったいダメ」
 冷蔵庫の卵を取り出そうとすると、私の足にしがみついてそれを止めさせようとする。見ているとダメなので、マナがお友達の家に遊びに行っている間にこっそりと1つ使ってみたりした。
「ママ!! ピヨちゃんのたまご、どこにいったの!」
 冷蔵庫の卵の数を数えていたらしいのだ。

 それからは、私が冷蔵庫を開けると、すぐにだっこをせがんで卵の数を確認するようになってしまった。

「いーち、にーい、さーん、しーい、ごーお。はい、みーんないますねー」

 マナはこの卵から、いつかピヨちゃん(とその仲間)が生まれてくると、思っていた。

「マナ、ニワトリのおかあさんになったんだよ」
 そんな夢を、どうやら時々みているらしい。

 冷蔵庫の5つの卵は手つかずのまま、3週間が経過した。

           * * * * *

「ママ! きょうね、うまれたんだよ!」
 夢の中でひよこが孵ったという。にわとりおかあさんのマナはご機嫌だ。
 これはそろそろ卵を使っても大丈夫かもしれない。
 私は冷蔵庫を開けてそっと卵に手を伸ばす。いつもと違って、マナはまるで無関心だ。拍子抜けして、一番右の卵を手に取る。

何これ?

 その卵は空気のように軽かった。他の4つの卵も同様に、中身の手応えがまるで無い。恐る恐る、私はその卵にひびを入れ、割ってみた。

 何も無かった。
 本当に、空気しか入っていなかった。
「やだ、何も入ってないじゃない……」
 私は次々に卵を割ってみる。あるはずの黄身も白身も、何も流れ出てこない。戸惑う私を見てマナが不思議そうに言った。

「どうしたの?」
「……どうしたのって……卵がね、からっぽなのよ……」

 最後の1つを割ると、中から何か滑り出した。
 でも期待するようなとろりとしたものではない。ふわりと落ちたそれを指先でつまむと、黄色く小さな羽毛だった。

「だって、うまれたんだもん」
 あたりまえでしょ、とマナが続けた。

 この娘には、どうやら何かとんでもない能力が備わっているらしい。

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -(完)

この物語はフィクションです。
登場する場所は実在しますが、
人物・団体名はすべて架空のものです。
写真はストーリーのイメージ源になったもので、内容とは一切関係ありません。
コメント
この記事へのコメント
面白かったよ
あら。面白い。
不思議さが心地よいです。
2006/12/23(土) 17:58:01 | URL | あさみ編集長 [ 編集]
ありがとうございます
ちょっと不思議系エッセンスを入れてみました。
不思議少女マナちゃんシリーズとか出来るかもしれません(笑)
>あさみさん
2006/12/25(月) 02:01:48 | URL | 紺 [ 編集]
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